日記 20200722+兄の終い補稿

まだ書いているのか! と言われてしまいそうですが、今日も日記と補稿を少しだけ。

『兄の終い』について取材を受けるとき、よく聞かれるシーンがある。それは、私が兄の汚部屋に踏み込み、ガラクタを片付けている途中にやってきた大家さんとのやりとりについてだ。

部屋をせっせと片付ける私を見て、たぶん心の底から気の毒に思った大家さんが、ホテルの宿泊だとお金がかかるだろうから、よかったらこの部屋に泊まりなさいなと私に言ってくれたのだ。私はブフォォォォォと吹き出しそうになりつつも、慌てて、首を左右に激しく振りながら「アッ、それは結構です!!」と答えた。

私たちが部屋を片付ける様子を見て安心し、饒舌になった大家さんが去ったあと、早速加奈子ちゃんに言いつけた。

大家さんがさあ、泊まっていいって言うんだよ、つか、絶対無理っしょ! と言った私に合わせるように、後ろで片付けをしていた満里奈ちゃんもクスクス笑ったんだが、私の話を聞いた加奈子ちゃんがぽつりと、

あたしはいいよ、ここに泊まっても

と答えたのだ。私はびっくりしてしまって、ロクに反応もできず、恥ずかしくなって、うつむいてせっせと兄の遺したガラクタをごみ袋に投げ入れ続けた。この場面を思い出して書いたわけなんだけど、私のその時の解釈と、実際の加奈子ちゃんの気持ちは全然違っていたことが、出版が済んでからわかった。加奈子ちゃんって本当に優しい人だな~と私は思っていたのだけれど、少し違った。いや、優しい人には違いないのだけれど、その優しさは兄に向かっていたのではなく、息子の良一くんに向かっていた。

多賀城から戻り、加奈子ちゃんと様々な意見を交わすなかで、彼女はこのときの気持ちを教えてくれた。兄の汚れた部屋に泊まってもいいと言った理由は、万が一良一くんが、兄と住んだアパートを出ないと言ったときのことを考え、その場合は自分がそのまま一緒にアパートに住み、時間をかけてゆっくりと良一くんを説得しようと思っていたそうだ。職場の上司にも、そうなるかもしれないと告げ、同僚にも告げ、家族にも告げ、皆から了承を得て多賀城に来ていた。

塩釜署から連絡が来た日の夜、私は当然一睡もできずに、良一くんをどうしようと考えていた。加奈子ちゃんとは何年も話をしておらず、彼女がどのような気持ちでいるのか全くわからなかった。もしかしたらしばらくの間、良一くんと暮らすことになるかもしれない。そうなると男児が三人になるわけだから、部屋の確保をどうしたらいいんだろう、転校の手続きとか転居とか、これから先、大変になるぞ……と、朝まで考えていた。

今となっては、当時の加奈子ちゃんが、まさに死に物狂いで良一くんを連れ戻そうとしていたことがわかる。でも、そのときの私には何もわかっていなかった。何もわからないまま、呆然としていた。

兄の死後、加奈子ちゃんがゆっくりと今までの長い道のりとこれからの希望をメールしてくれることがなによりうれしい。兄に感謝することがあるとしたら、一冊書かせてくれたこと、そして加奈子ちゃんの存在だろうと思う。

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以下、お知らせ。Web連載が増えました。そして新刊が二冊出ています。

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